■ ソフトウェアに関する知的財産権について
■著書
「ソフトウエア危機とプログラミングパラダイム」( 1992年 発行 )
→ 目次
の12.3.1から引用
12.3.1 知的所有権
Intellectual Property は、知的所有権または
知的財産権
と訳される。知的
所有権は、工業所有権と著作権に分類され、前者には、特許権、回路配置権、
トレ−ドシ−クレット法、商標権などがある。
特にソフトウエアに関する知的所有権をどんな方法で保護するかという問題
が注目されている。既存の制度では、特許や著作権がある。従来、ソフトウエ
アは特許になりにくかったが、最近は方法特許やコンピュ−タに組み込んだ装
置特許として認められることが多くなってきた。一方、ソフトウエアを著作物
とみなして著作権で保護することもおこなわれるようになってきた。しかしな
がら、従来、物としての製品やその製造方法を念頭において作られた特許制度
や文芸作品の文章などの表現を対象とした著作権は、そのままソフトウエアに
適用すると不都合な面もある。ソフトウエアの知的所有権に関して各国でその
保護の方法が異なっているが、米国や欧州ではソフトウエアを言語著作物(リ
テラリワ−ク)として著作権法で保護する考えが強い。この問題は、経済のグ
ロ−バル化と共に、その標準化の必要性に迫られており、関税貿易一般協定・
多角的貿易交渉の対象になっており、世界知的所有権機関( WIPO : World
Intellectual Property Organization )でも種々の努力がなされている。
知的所有権への関心の高まりと共に、
ソフトウエア関連の特許出願が急増
し
ている。ソフトウエアに関するトラブルも増加している。特に、最近はワ−ク
ステ−ション、パソコンの普及やビットマップディスプレイの普及につれて外
部インタフェ−スの部分が多くなり、ウィンドウやポインティングデバイス関
連の類似性が問題になりやすい。今後、マルチメディアデ−タを簡単にコンピ
ュ−タで扱えるようになるとその著作権も大きな問題となろう。既に、他人の
持っている特許を買い取って、その特許を侵害していると思われる会社にライ
センス料を請求する特許管理会社も出現している。その反対にソフトウエアの
権利化の弊害を主張して、良いソフトウエアを普及させるために無料で配布す
る団体( FSF : Free Software Foundation )もある。
このようなソフトウエアの知的所有権の保護が行き過ぎれば、ソフトウエア
産業の発展が阻害される。そればかりか、今日のように日常生活で接している
あらゆるものにコンピュ−タが使用されるようになると、最も迷惑を受けるの
がエンドユ−ザということにもなりかねない。にもかかわらず、ソフトウエア
の知的所有権の保護はさらに強化されていくと思われる。
この視点で来たるべき21世紀を展望すると、規模、量、質に続く第4のソ
フトウエア危機が知的所有権によってもたらされる可能性がある。日本の約
50倍の弁護士がいるといわれる米国の訴訟社会が最初に本格的に日本にもた
らされるのはこの分野かも知れない。その時には、プログラマ不足に代わって
弁護士、弁理士不足が問題になるだろう。訴訟に対抗し、違法行為を合法化す
るためにマネ−ロンダリングならぬ
テクノロジ−ロンダリング
がはびこるだろ
うか。ソフトウエア開発技法の大半が法律問題で占められ、
ソフトウエア産業が法律産業と化す
ことはないとは思うが。
反面、知的生産物の権利が尊重されるということは、この分野の研究者や技
術者に大きなビジネスチャンスが生まれることにもなる。3章のソフトウエア
危機回避のシナリオの一つとして、情報処理技術者の自由業化について述べた
が、アイデア一つで億万長者も夢ではなくなる。