「センタからの解放」という豊かな時代へ


中所 武司   → 原本コピーはこちら

 「視聴覚センタに行って勉強しよう」

と思う真面目な学生にだけすばらしい施設を提供する戦後50年の豊かな社会にも, 「面白いテレビ番組がないから英語のビデオでも見るか」 という不真面目な学生の下宿先にそのビデオを届けてくれる大学があったら,私の英語ももう少しましだっただろうに,という夢のような話が夢でなくなるというから世の中は面白い.

 そこで,”視聴覚センタ”という教育の場にふさわしい名前が学生の意識から消える日は近い,という話をしましょう.いわゆる高度情報化社会とかいう有難い話に少しの間つきあってください.

 情報化と言えば,なんといってもマルチメディアとインターネットははずせませんね.2010年にはマルチメディア市場は123兆円産業になるといわれています.日本中のデパートの1年間の売り上げが9兆円足らずですから,マルチメディア市場の大きさははかりしれません.今から14年後といえば,今の学生がちょうど課長になって社会の最前線でがんばっているころですが,ビジネスチャンスは数知れず,多くの人達が何らかの形でマルチメディアに関係していることでしょう.

 この話題は,情報スーパーハイウェイと呼ばれる米国の全米情報基盤構想に始まり,国内では新社会資本の充実や全国の家庭までの光ファイバー網の整備という計画と呼応し,ナポリサミットでの地球規模の情報基盤整備の提案とその実現計画へと発展してきました.そして,最近のインターネットの話題へとつながってきたわけです.近い将来には,ホームページを持たないホームレスの存在が社会問題化するかもしれませんね.

 このマルチメディアという言葉は,世の中ではいろいろな観点から取り上げられていますが,そのいくつかをあげて見ましょう.一つは,文字,画像,音声,動画などのあらゆる形態の情報がディジタル化されてCD-ROMに記録され,コンピュータで自由に処理できるというものです.二つ目は,そのディジタル化された情報を大量かつ高速に送信するためのインフラとしての光ファイバー網の整備が急がれるというものです.三つ目は,双方向性あるいは放送と通信の融合という観点で,たとえばビデオオンデマンドのようなものが注目されています.さらに,遠隔医療やバーチャルモールなど,社会性の強い分野への応用もいろいろ考えられています.

 ところが,先の123兆円の話では,生産者中心の視点からのインフラの議論が先行していて,利用者の視点に立った魅力的な応用がまだ十分検討されていないのが現状です.マルチメディア時代には,なによりも生産者中心の視点から利用者中心の視点へのパラダイムシフトが必要ですね.

 そこで,私は,情報化の目標を,コンピュータ支援による豊かな生活の実現という意味で,CS-life(Computer- Supported Life)と呼んでいます.仕事の効率化よりも生活を豊かにすることにもっと知恵を絞ってはどうか,という気持ちをこめているわけです.

 というわけで,日頃,ゼミの学生に「エンドユーザの視点で考えよ」と言っている手前,視聴覚センタについてもそのように考えて見たのが冒頭の夢だったというわけです.これからの時代,センタの果たす役割はますます重要になると思いますが,エンドユーザにはセンタの存在すら知られないで,しかも豊富なビデオ教材などが学生の自宅や下宿のパソコンからいつでも好きなときにアクセスできるというわけです.学生は缶ビールを飲みながらパソコンの画面をマウスでクリックして遊んでいるつもりが,いつのまにか英会話の達人になっているなんて,これこそ来るべき時代の豊かさではないでしょうか.この時代,まさにセンタは縁の下の力持ち,いや仮想なんとか.....